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【始祖鳥の特徴】

2008年8月6日更新


【体躯】
 ハトとほぼ同程度の大きさです。ただし、マニラプトラ類ゆずりの強力な脚と太く長い尾をそなえているため、実際よりはだいぶ大柄にみえます。(参考→始祖鳥の大きさについて)
 しばしば『大きさはカラス程度』という記述を目にしますが、これは鳥類の体長の計測基準に則って計測した場合に生じる数値上のトリックです。鳥類の計測法は「クチバシの先端から尾の終端」であるため、尾の長い始祖鳥は過大に評価されることになります。
 間違いとは言えませんが誤解を招きやすい記述です。

【始祖鳥の諸元】
体重250g
翼開長58cm
翼面積(2翼)611cm3
総翼面積754cm3
翼面荷重(2翼)0.41g/cm2
翼面荷重(総翼面積)0.33g/cm3
アスペクト比4.5
失速速度4.1~5.0m/s

【形態】
 長い尾を持つため、重心位置を含めた全体的な形態は基盤的なドロマエオサウルスのそれに近い。
 地上においてはドロマエオサウルス類に準じる運動能力を持っていたと考えられる。(参考)

【頭部】
 CTスキャンによる解析によると、脳は飛行する鳥類のそれに近い。
 頭部は現生鳥類のような三方的な構造よりは、獣脚類のような四方的な構造に近い。
 歯は歯槽に収まっている本来の「歯」であり、円錐形をしている。ベルリン標本では上あごに13本、下顎に6本が確認できる。ただし、興味深いことに非鳥類型獣脚類に見られるセレーションは確認できない。この点は非鳥類型獣脚類と明確に異なる。

【前肢・翼】
 第2指から生える初列風切羽は現生鳥類に比べて数が多い。ベルリン標本では初列12枚、次列風切+三列風切14枚を確認できる。  烏口上筋が存在しないため、肩よりも高く翼を持ち上げることはできなかった。羽ばたきのストロークは浅く、羽ばたき周期は早かったであろう。
 胸骨が未発達のため、打ち下ろしの力も少ない。
 低速飛行時や有効に働く小翼(Bastard wing)がない。
・前肢の爪の役割
 テイラー標本(ハールレム標本)に角質層の印象が残っているが、鋭利なままで全く磨耗していない。前肢の指を捕食や木登りなどには使っていなかったことを示唆している。これは始祖鳥の樹上生活説を否定する材料の一つである。

【胴部・呼吸器】
 胸骨に鈎状突起が見られ、また、椎骨に含気化が見られる。これらの事実は気嚢があったことを示唆している。(Britt, Makovicky, Gauthier, Bonde, 1998)

※1 始祖鳥と現生のトリをわかつ特徴
 いままで始祖鳥と現生のトリをわかつ特徴として、『始祖鳥は気嚢をもたない』という項目がありましたが、これは現時点では否定する意見が多数派です。気嚢とは、要は体内にある(骨の中も含む)空気袋で、これを持つことで現生のトリは体を軽くし、さらに呼吸能力を向上させていますが、いままでは始祖鳥にはこれはなかったといわれていました。『ネイチャー』1998年10月24日号の論文によると、始祖鳥の頭部後方の頸椎と前胸椎に含気化(pneumatization)が見られたとのことで、やはり始祖鳥にも気嚢はあったようです。(→ニュースのバックナンバー) (Britt, Makovicky, Gauthier, Bonde, 1998)

【尾部】
 21個の尾椎骨で構成される骨質の尾を持つ。尾は腱で固められており、根元のみで可動する。
 しっかり羽軸の通った強固な羽毛
【脚部】
※3 始祖鳥は脚の指でものを掴めない 2005年12月6日追記
 物を掴むためには、親指(あるいはそれ以外の指)がそれ以外の指に対抗してついている必要があります。従来の解釈では始祖鳥の脚は「掴める」脚でしたが、今回の発見で、そうではなかったことが分かったのです。
 『木の枝に止まる始祖鳥の絵』は『松の木に止まるタンチョウヅルの絵』と同じ程度に誤りであると言うことになります。(→ニュースのバックナンバー)
 第2指は伸展できる。(Mayr, 2006)ドロマエオサウルス類およびトロエドン類に見られる特徴である。中足骨は嵌入中足骨(アークトメタターサル)状(Arctometatarsal)である。(Holtz, 1995) これはドロマエオサウルス類のほか、ティラノサウルス類やドロミオケイオミムス類などの高速疾走性の恐竜の持つ特徴である。

 骨の長さの比率を見る限り、遠位部側の骨が相対的に長くなっており、コンプソグナトゥスよりもむしろ高速走行に適している。  第1指はほかの指と対抗していると従来考えられていたが、2008年現在では指の対向性はなかったことが判明している。(※ただし、横方向までになら伸展できるとのこと。)(Mayr, 2006)
・脚部の羽毛
 後肢の中足骨の部分――ヒトで例えるならつま先で接地した状態での足の裏側に相当する部位――に羽毛を持っていたことがあげられます。マイヤーによる最初の記載論文ですでに脛の羽毛は確認されていましたが、近年の中国義県層でのミクロラプトル・グイ(Microraptor gui)発見もあり、この論文によって再評価されたことになります。
 2007年夏にカルガリー大学の学生、ニコラス・ロングリッチ(Longrich)が後肢の羽が飛行に寄与したいう説を提唱し、ていますが、  Longrichの論文は杜撰とまでは言わないが、不自然に楽観的な数値データ(12%の翼面積がそのまま主翼と同じ)や航空力学用語(aerofoilをLongrichが言っているのはwingletじゃないのか。)の誤用が見られ、考察が足りない印象がある。ありえないだろう、常識的に考えて。この程度の論文がなぜマスコミを通じて大々的に報道されたのかが不思議でならない。  始祖鳥の脚の羽はしっかりした羽軸が通っておらず(現生のケアシノスリのそれに近い)、揚力発生源としての形で飛行に直接寄与していたことは考えにくい。  筆者の仮説だが、安定を保つための垂直安定板として 小翼を持たない孔子鳥も、始祖鳥と同様の脚の羽毛を持っている。  始祖鳥を含む初期鳥類には低速飛行時に有効に働く小翼がない。  後肢に羽を持つが、小翼の働きを補完する 左右の推力を均衡させる目的があったのではないか  サギのように足を後ろに伸ばして飛んでいた可能性がある。 Longrich, N. 2006. Structure and function of hindlimb feathers in Archaeopteryx
lithographica. Paleobiology 32(3):417
【始祖鳥の諸元】
【始祖鳥の生息場所】
 少なくとも現時点の材料から判断する限り、始祖鳥は樹上性の動物ではなく、地上性であった可能性が強いと考えられます。 根拠は以下に列挙します。 (1)当時のゾルンホーヘンの植生
 干潟のような地形で樹高3mを超える高木が無かったと考えられています。(Viohl, 1985)、 (2)始祖鳥における足の爪の湾曲率
 始祖鳥の足の爪の湾曲率は現生の地上性鳥類および樹上性鳥類と比べた結果、地上性鳥類のそれに近い点があげられます。

(3)始祖鳥の脚は地上を高速で走ることに適している
 大腿骨と脛骨の比率を同時代のゾルンホーヘンに生息していた小型獣脚類コンプソグナトゥスと比較した場合、始祖鳥は相対的に脛骨が長く、この結果は地上生活者であったであろうコンプソグナトゥス以上に平坦地を高速で疾走することに適していたことを示唆するものです。(右の図を参照)  始祖鳥の中足骨はアークトメタターサルという嵌め合い構造になっています。  ドロマエオサウルス類と同様のプロポーションを持っています。 (4)始祖鳥の後脚の親指は他の指と対向していない  木の枝を掴むことはできなかったことも判明しています。  木の枝に止まっている始祖鳥の復元図を多く見かけますが、前述の要素を総合した場合、これらは誤りである可能性が高いと考えられます。
 樹上説が流行していた理由 この点については パイロットはいなかったらしい 向かい風を考慮に入れていなかったこと
 詳しくは下記のURLにまとめました。(2007年10月29日追記)

『始祖鳥は樹上性にあらず』

【始祖鳥の食性】
【分岐学上の位置】  ドロマエオサウルスの方が原生鳥類に近くなり、従来の定説を覆すことになる。  すぐに反論が出された。  反論の論旨は「新説が強く支持されないのは認めるが、それは従来の説にも言えること」というもので、説得力のある反論に成功していない。(原文へのリンク)  当地では従来のスタンダードな説を支持する。 直接の祖先ではない  始祖鳥はトリに違いありませんが、それ自身は現生のトリの直系の祖先ではないと考えられます。(Padian, 1998)
 この場合の『直系の祖先ではない』と言う表現は、始祖鳥と鳥は赤の他人の空似であるという意味ではありません。始祖鳥と現生鳥類との関係は、親子ではなく兄弟のそれに近いということです。
 始祖鳥は現在の鳥と祖先を共有しており、現生の鳥に至る流れから分岐して少し進んだ位置にいます。ですから始祖鳥を見れば、始祖鳥と現生の鳥の共通祖先がどういうものだったかを推測でき、間接的に現生の鳥の祖先について知ることができるわけです。
 尾が長い  その点以外では原生鳥類に近い 基盤的な特徴 派生的な特徴 【始祖鳥の生息地】
生息地  堆積物  当時の潟湖 遠浅 潮の干満で相当海岸線が変化したはず 遮蔽物がない場所で風は強かっただろう。 塩分濃度は非常に濃くなったはず。タフォノミー上の見解もこれを裏付ける。 決まった川の流れはなかった ゾルンホーヘン層群でなぜか見つかっていないもの

・3メートルを超える高木の化石
 不思議なことに葉や断片、流木を含めて見つかっていない。これらは昆虫や軟体動物よりも化石に残りやすいはずであり、後者は産出するのに前者が産出しない事実は、少なくとも自然の作用で流されてくる距離には高木は存在しなかったことを示唆させる。

・昆虫の幼虫
 トンボは見つかるがヤゴが見つからない。
 石灰岩層となっている潟湖は濃度の高い塩水だったことが知られており、水生昆虫のイメージとは結びつかない。(海棲の昆虫もいないわけではないが)
 筆者の仮説だが、昆虫類は、雨季に陸上に出現する淡水の水溜りで繁殖していたのではないか。ゾルンホーヘンには雨季と乾季があった。(Viohl, 1984) ゾルンホーヘン層群から幼虫化石が出るとするなら、石灰岩層からではなく、礁層の部分からまとまった形で出ると筆者は予想している。ただし、陸地の部分となりえる礁層は石灰岩層よりも化石が残りにくく、浸食作用の影響も考えると幼虫化石が出る可能性はあまり高くないだろう。

[NATURE,VOL 399,13MAY1999][Kevin Padian]による[Dinosaur tracks in the computer age]の[Figure.1]より切り出し引用
左がコンプソグナトゥス、右が始祖鳥。始祖鳥の大腿骨は相対的に短く、腓骨・脛骨・中足骨は相対的に長いことに注目。
【始祖鳥の飛行能力】
 始祖鳥の風切羽は非対称である。  烏口上筋が存在しないため、肩よりも高く翼を持ち上げることはできなかった。  羽ばたきのストロークは浅く、羽ばたき周期は早かったであろう。  胸骨が未発達のため、打ち下ろしの力も少ない。  ことも、興味深い特徴ですが、始祖鳥が現生の鳥と決定的に違う点は、、そして翼から生えた3本の指でしょう。(最近再評価された特徴として
 これは鳥というよりは獣脚類(いわゆる『恐竜』と呼ばれているグループの一部)の特徴です。もし始祖鳥の化石に羽毛の印象と叉骨(胸骨を固定するYの字型の骨。いわゆるウィッシュボーンのこと)がなければ、『非鳥類型獣脚類(Non-Avian-Theropod)』に分類されても不思議はありません。後述する標本のいくつにかは、実際に『獣脚類』と同定されていたものもあるくらいです。このため、最近は『獣脚類』の『恐竜』を指してという言いまわしをすることがあります。

【注釈】