始祖鳥の骨格を含む化石は、2005年現在、下記の10体が確認されています。(羽毛のみの化石を除く)
| ||
---|---|---|
(1) |
ロンドン標本 (London specimen) BMNH 37001 |
産出年:1861年 産出地:Langenaltheim 近郊 記載者、年:R. Owen, 1863年 所蔵:大英博物館(British Museum) 最初に始祖鳥として同定された全身化石 保存状態は良好だが、顎の先(本来歯があったはずの部分)に切り取られたような欠落がある A.lithographicaの完模式標本(holotype) |
(2) |
ベルリン標本 (Berlin specimen) HMN 1880 |
産出年:1876年発見 産出地:Eichstätt 記載者、年:W. Dames, 1884年 所蔵:フンボルト大学自然史博物館(Humbolt Museum) ロンドン標本と並び、もっともよく知られる始祖鳥の標本 標本の状態が良好なため、この標本のレプリカや写真はさまざまな場所で展示されている |
(3) |
マックスベルク標本(Maxberg specimen) S5 |
産出年:1956年発見 産出地:Langenaltheim 近郊 記載者、年:Heller, 1959年 所蔵:不明 唯一の個人所有の標本であったが、所有者の死とともに現在行方不明 標本の状態はあまり良くなかったらしい (2006年7月4日追記) マックスベルク標本という呼称は一時的にマックスベルク博物館に展示されていたことに由来している。(1982年までマックスベルク博物館に収蔵されていたという文献もある) いずれにせよ最後に確認された時点では所有者の元にあり、その死(1991年)により散逸。 現在残っているのは複製のみである。 |
(4) |
ハールレム標本 (テイラー標本) (Haarlem/Teyler specimen) TM 6428 |
産出年:1855年発見(当初は翼竜として同定) 産出地:Riedenburg 近郊 記載者、年:H. von Meyer,1857年 J. Ostrom, 1970年 所蔵:テイラー博物館(Teyler Museum) 最も古い標本、ただし、当初は翼竜『Pterodactylus crassipes』として同定されており、始祖鳥であることが確認されたのは1970年 テイラー博物館収蔵 腕のみの化石であるが、鳥と恐竜の類縁について再考するきっかけとなった標本でもある |
(5) |
アイヒシュテット標本 (Eichstätt specimen) JM 2257 |
産出年:1951年発見(当初は小型獣脚類として同定) 産出地:Workerszell 近郊 記載者、年:P. Wellnhofer, 1974年 所蔵: 当初は小型獣脚類として同定されており、始祖鳥と同定されたのは1973年 現在知られているもっとも小さな個体 ほぼ完全な保存状態であるが、叉骨が確認できない(幼鳥のため骨化していなかったものと思われる) Eichstättのaはウムラウト付きのため、ドイツ語での発音は『アイヒシュテット』に近い ※正式な英字綴りはEichstaettとなるそうです。(2006年05月30日追記) |
(6) |
ゾルンホーヘン標本 (Solnhofen specimen) S6 |
産出年:不明(1960年代と思われる) (当初は小型獣脚類として同定) 産出地:Eichstätt 記載者、年:P. Wellnhofer, 1988年 所蔵:Bürgermeister-Müller-Museum ※ただし始祖鳥と同定されたのは1987年 ミュラー市長記念博物館所蔵 現在知られているもっとも大きな個体 (Wellnhoferia grandis という新属新種とする説もある) |
(7) |
バイエルン標本 (ミュンヘン標本/ゾルンホーファー・アクティエン・ヴェレイン標本) (Solnhofer Aktien-Verein specimen) BSP 1999 |
産出年:1992年発見 産出地:Langenaltheim 近郊 記載者、年:P. Wellnhofer, 1993年 所蔵: (Archaeopteryx bavarica) ミュンヘン博物館収蔵(1999年10月現在) 最新の標本で、発達した胸骨を持つ A.bavaricaの完模式標本(holotype) ※この標本は英語圏では「ゾルンホーファー・アクティエン・ヴェレイン標本」「ミュンヘン標本」と呼ばれていますが、日本では「バイエルン標本」で定着しているようです。ただ、現時点でA.bavaricaとして同定されているのはこれ一体であることから、英語圏の研究者達は単に種名で「ババリカ(A.bavarica)」と呼ぶことのほうが多いようです。(2007年01月15日追記) |
(8) |
ワーカーセル標本 (Workerszell specimen) |
産出年:1997年以前? 産出地:Workerszell 近郊 記載者:未記載標本 所蔵:不明(所有者も不明) 翼、大腿骨などの断片的な標本 この標本は一般にはほとんど知られておらず、残っているのは複製のみ 存在が明るみになったのは最近のことだが、1997年の時点で複製が存在していたことが確認されている Workerszellで産出したらしい ※科学的に調査されたことが一度もないまま行方不明となり、現在所蔵、所有者ともに不明(2005年現在) Archaeopteryx sp.(始祖鳥属の一種) |
(9) |
オットマン&シュタイル標本 (シュタインベルク標本) (OTTMANN & STEIL specimen) 通称”Chicken Wing” |
産出年:2004年春 産出地:Steinberg(SolnhofenとLangenaltheimer Haardtの間) 記載者:未記載標本 所蔵:Bürgermeister-Müller-Museum(2004年~) (OTTMANN & STEIL家の個人所有, 1997年?~2004年) 通称「チキン・ウイング(Chicken Wing:手羽先)」 その名が示すように翼のみの標本(片翼) 2004年までOTTMANN & STEIL家の個人所有であった 2005年現在、ミュラー市長記念博物館(ブルガマイスター・ミュラー博物館)に所蔵 Archaeopteryx sp.(始祖鳥属の一種) |
(10) |
サーモポリス標本 (Thermopolis specimen) WDC-CSG-100 |
産出年:1970年代以前? 産出地:Langenaltheim 近郊? 記載者:G. Mayr , D.S Peters 所蔵:個人所有(2005年まで) Wyoming Dinosaur Center (Wyoming) 今まで発掘された成鳥の中で保存状態は最良 (アイヒシュテット標本も保存状態は良いが、これは幼鳥である可能性が高い) 第一指、第二指の構造について新事実を明らかにした 個人所有だったものが所有者の死亡により存在が明らかになった 特徴的には A.bavaricaに近いとのことだが、(2005年現在)種レベルでの同定はまだ行なわれていないため、『始祖鳥属の一種(Archaeopteryx sp.)』としての扱いとなっている |
※上記の標本は発見順ではなく、始祖鳥であることが確認された順番に並べています。
※記載論文が存在しない「ワーカーセル標本」「オットマン&シュタイル標本」については、こちらのサイトを参考にさせていただきました。写真もありますのでこれらがどのような化石かを知りたい方は必見です。
www.fossilien-solnhofen.de - Der Solnhofener Plattenkalk und seine Fossilien (ドイツ語のサイトです)
Archaeopteryx (全標本の写真有り!)
写真の出典は、(0)~(5)が(Ostrom, 1984), (6)~(7)が(Shipman, 1999)からの引用です。(8)、(9)に関しては記載論文がないため写真はありません。態様を知りたい場合はこちらのサイトに写真がありますのでご覧ください。(ドイツ語のサイトです。)
始祖鳥の化石は大きさや特徴にばらつきがあり、これらのいくつかを別種とする研究者もいます。最大のゾルンホーヘン標本と(全身が残っているものでは)最小のアイヒシュテット標本では、1.5倍も大きさが違いますし、アイヒシュテット標本には(完璧な保存状態でありながら)叉骨が見つからなかったりしています。しかし、現在のところ(1)~(6)はすべて同種(Archaeopteryx lithographica)とみなすのが一般的な解釈のようです。
※最後に発見されたミュンヘン標本は発達した胸骨をそなえていることから、この化石を記載した二人、ベルンホーファー博士とオストロム博士はこれを別種とし、アーカエオプテリクス・ババリカ(Archaeopteryx bavarica)と命名しています。
ただし、これらが別種であってもそれぞれの標本を『始祖鳥』と呼ぶことに問題はありません。もともと『始祖鳥』とは、属名『Archaeopteryx(ギリシア語で『暁の翼』の意味)』の意訳ですから、ひとつの種ではなく、特定の生物群を指す言葉です。
【注釈】
※1 ジュラプテリクス(Jurapteryx) 2001年9月30日追記
15年ほど前に、最小の標本であるアイヒシュテット標本(Eichstätt specimen)が、新属新種であるという論文が発表されたことがあります。この論文の中で、アイヒシュテット標本はジュラプテリクス(Jurapteryx)と言う属名を与えられました。しかしこの発表について議論がおこなわれた結果、アイヒシュテット標本は始祖鳥(Archaeopteryx lithographica)の幼鳥であるということで議論は終息しています。
※2 ベルンホフェリア(Wellnhoferia grandis) 2002年11月19日追記
ポーランドの論文雑誌『ACTA PALAEONTOLOGICA POLONICA』に、始祖鳥のゾルンホーヘン標本(第6標本)は新属新種であると言う論文が発表されました。発表者は、ウロツラフ大学のAndrzej El?anowski(?は点が二つのi)で、ゾルンホーヘン標本は、この論文中でWellnhoferia grandisという種名を与えられています。
【各標本比較図】
2007年2月4日更新
始祖鳥の各標本の写真を纏めてみました。図版は全て同一スケールにあわせてあります。
写真の出典は、(0)~(5)が(Ostrom, 1984), (6)~(7)が(Shipman, 1999)からの引用です。
同スケールで比較してみるとわかりますが、最も大きいとされているゾルンホーヘン標本は、ベルリン標本やロンドン標本と比べて際立って大きいわけではなく、個体差の範囲で収まる程度の差しかありません。むしろ最小の個体で幼鳥と考えられているアイヒシュテット標本の小ささが印象に残ります。(2006年2月21日追記)