翻訳『始祖鳥と孔子鳥における初列風切羽の細い羽軸が乏しい飛行能力を示唆する』

このコンテンツについて - 2010年5月15日 -
 このコンテンツは,Robert L. NuddsGareth J. Dyke によるScience 328: 887-889 の内容を,私(始祖鳥)が和訳したものです.

 以下,原文の翻訳です.

「始祖鳥と孔子鳥における初列風切羽の細い羽軸が乏しい飛行能力を示唆する」

Narrow Primary Feather Rachises in Confuciusornis and Archaeopteryx Suggest Poor Flight Ability
(始祖鳥と孔子鳥における初列風切羽の細い羽軸が乏しい飛行能力を示唆する)


Robert L. Nudds
Gareth J. Dyke



    化石鳥類である始祖鳥(Archaeopteryx) と孔子鳥(Confuciusornis)は,現生の鳥類と同様に,羽毛の付いた翼を持っていたが,彼らの飛翔能力は定かではない.彼らの初列風切羽の羽軸に関する解析結果は,羽軸が現生の鳥類より薄く弱かったこと,および(始祖鳥と孔子鳥が)飛行に適応していなかったことを示す.初列風切羽の羽軸断面が,現生の鳥類のような中空ではなく,無垢(最も強い構造形態)だった場合に限り,飛行が可能であっただろう.故に,もし始祖鳥(Archaeopteryx) と孔子鳥(Confuciusornis)が羽ばたき飛行者であったならば,彼らは現生の鳥類と根本的に異なる羽毛の構造を持っていたに違いない.その代わり,彼らが単なる滑空者に過ぎなかったなら,羽ばたき行程は,おそらく孔子鳥(Confuciusornis)の発散の後,エナンティオルニス類(enantiornithine)かオルニツール類(ornithurine)の放散の過程で現れたに相違ない.
祖鳥(ジュラ紀後期;1億4500万年前) と孔子鳥(前期白亜紀;1億2000万年前)を含めた最初期の鳥類は,幾分の空気力を生成する羽毛のある翼を備えていた. しかしながら,これらの空気力に関する規模の見積もり,そして総合的な飛行適応性は,論議の的となり続けている.(2-10) いくつかの研究が始祖鳥(Archaeopteryx)は羽ばたき飛行に適応していたことを示唆し(2,3,5,9,10),別の研究は正反対の結論を出した(4,6–8). 孔子鳥の飛行適応性は(11),数百の化石があり,多くの完全な初列風切羽があるにもかかわらず(12) (Fig. 1A),あまり注目されていない. 初列風切羽は鳥類の飛行にとって重要であり,全翼幅の40~51%を提供し(16),持続する揚力に破損することなく耐え続けなければならない(17). 空中で水平飛行を保って飛行を持続する場合,鳥の飛行面は体重に等しい揚力[質量×重力加速度(g)]を支持しなければならない. より大きな力,体重の超過は,極端な機動と加速を生み出す(18). 以前の論文は屈曲によって羽毛が破損することを示す(17). したがって,我々は,始祖鳥(Archaeopteryx)と孔子鳥の初列風切羽の耐荷重能力を決定し,彼らの飛行能力を推論するために,オイラー=ベルヌーイの梁理論(Euler-Bernoulli beam theory)を使用した(19).


 5体の孔子鳥標本の平均した初列風切羽長は 207±17 mm, そして平均した羽軸の直径は 1.06±0.12mmで,Elżanowskiの計測(20)による,始祖鳥ミュンヘン標本における最長の初列風切羽の129mm/0.75mm(Table 1)と矛盾しない. 化石羽毛について,化石化の間に押しつぶされることに関する確証はないが,押しつぶされることは見た目の直径を増加させることになり,それは羽毛の強度についての我々の見積り値を(実際よりも)増やすことになる. 始祖鳥と孔子鳥の初列風切羽の長さは同様の大きさの現生鳥類から予測される値に近い(Fig.1B). しかしながら,両方の化石鳥類で,鳥類の体の大きさと羽毛の長さに対して,羽軸は細い(Fig. 1, B and C). 化石鳥類と対照して,羽毛の形態は2種の同様の大きさの現生の鳥類 (Larus ridibundus およびColumba palumbus)と,2種の大きい滑空鳥類(Diomedea exulans と Gyps fulvus)は,Worcester(21)によって決定された他の現生鳥類との関係性から予測される値と,類似している.




 同じ厚さを持った2つの円柱のうち大きい方が,全体の半径に相関して,曲がる前に大きなモーメントに耐えることができることは確立した理論である.(Fig. 2) ここにある重要な結果は,孔子鳥の初列風切羽を曲げるためのモーメント(0.0036[N・m])は,必要とされる強度(0.3234[N・m])よりも規模が2桁少ないことで,その(強度を満たせるだけの)直径は同様の羽毛の長さを持つ現生鳥類の初列風切羽(4.8[mm])に一致する. 同様に,始祖鳥の初列風切羽は規模が1桁少なく(終局モーメント = 0.0013[N・m] 対 0.0652[N・m]),同様の大きさの現生の類似種の羽毛よりも,曲げにより破損する可能性が高い. たとえ初列風切羽が,可能性のありえる最も強い構造――ケラチンの無垢材の横断面――と想定したとしても,終局モーメント(開き破壊)は,孔子鳥(0.0264[N・m])も始祖鳥(0.0094[N・m])も.同様の大きさの現生鳥類を規模にして1桁下回る.



 翼全体にかかる揚力に対しての初列風切羽にかかる揚力(Lprimaries)の割合は,孔子鳥で42.9%,始祖鳥で39.2%である. 比較すると,C. palumbusは39.2%,L. ridibundusは29.8%,D. exulansは11.1%,G. fulvusは25.5%である. 発生する揚力が体重と等しいとして,初列風切羽にかかる揚力(Lprimaries)は前述の割合に従い,1.05 N (孔子鳥), 0.42N (始祖鳥), 0.94N (C. palumbus),0.42N (L. ridibundus), 4.46N (D. exulans), 9.30N (G. fulvus)となる. 2種の化石鳥類について,これらの力は――彼らの初列風切羽が現生鳥類の羽毛と同様の構造であった場合――耐えることができた力を超える. 彼らの羽軸の推定破断モーメントは,体重に等しい揚力が羽毛の上に発生した場合に対して,わずか39%(孔子鳥),55%(始祖鳥)であった(Fig. 3). 推定される羽軸の安全率([破断力]/[体重と等しい揚力])は,13.6(L. ridibundus), 10.1(C. palumbus), 9.9(D. exulans), 6.1(G. fulvus)である.C.liviaの定常飛行中については先の推定範囲とそれぞれ同等であり[安全率9-17の値(17)],これらの種が羽ばたき飛行に適応していることを確認し,それ故,我々の方法論の妥当性を実証する. 彼らの羽毛の構造が現生鳥類と似ていた場合,孔子鳥と始祖鳥は,翼を背面に保持して(※何しろ真横に広げたら初列風切羽が破断する)初列風切羽にかかる荷重を減らしつつ降下速度を減らす形でのパラシュート降下しかできなかっただろう. パラシュート説は,彼らの全体的な翼の形態と整合しないように思われる. それらを頑丈なケラチンの梁と想定したときでさえも,化石鳥類の初列風切羽は,安全係数にしてわずか2.9(孔子鳥)と4(始祖鳥)を提供するだけであり,それは現生鳥類を下回る(Fig. 3).



 それぞれの段階の計算について,パラメータの推測値は,揚力を支持する能力について可能性のありえる高めの範囲を提供するよう選ばれた.例えば,翼の遠位部に対して働いている力は等しく10の羽毛に割り振られた.そのため,我々はおそらく先端の初列風切羽の負荷を小さく見積もったことになる――なぜならすべての初列風切羽が等しく遠位の揚力荷重を受け持つわけではないからである. 端から1-4枚目の初列風切羽が翼端を構成するのに対して,5枚目以降は一般に翼端を延長せず,それらの長い羽軸は漸次背面に方向づけられている. 加えて,一般に翼弦の揚力分布は,頭蓋側が尾側よりも少なくとも2倍高い. 体重の推測は揚力の計算にとって極めて重要である. 彼らの羽毛が(形態上,現生鳥類に類似している場合)体重と等しい揚力荷重を支えるのに十分とするなら,孔子鳥と始祖鳥の体重はそれぞれ0.215[kg],0.188[kg]となるが,彼らの体重がこれほど軽いはずがない. 鳥の初列風切羽は長軸方向に溝があり,これらは始祖鳥にも見られる.(5) しかしながら,横断面に溝を取り入れることの手に負えない性質のため,羽軸は畝間なしで設計された. 以前の論文(17)では,ハトの初列風切羽を破断するために必要とされる圧縮応力は,オイラー=ベルヌーイ梁理論(Euler-Bernoulli beam theory)を使って推定した結果は,実際の要求値よりも21%高かったことを示した. そのため,理論的な推測はおそらく実際よりも高く,羽毛は実際には構造的により弱い.


 未発達な前肢の動きでさえ有用な推力を生成することができるから(1,22,23),これらの化石鳥類による若干の推力発生を軽視はできないが,現生鳥類のような力強い羽ばたき飛行は殆どありそうもない. 飛翔は滑空の終わりに向かって能力範囲について始祖鳥の既知の筋系(4),肩の解剖学的特徴(6),羽毛における羽弁の解剖学的特徴,そして緩やかな羽軸の曲率(2)と矛盾しない. それは同様に,発掘された孔子鳥の三角筋稜(deltopectoral crest)の拡大写真(12)と一致する. 我々の結果は,中生代鳥類の翼の羽毛と現生鳥類の皮相的な類似点を,必ずしも同様に空気力(aerodynamic force) に耐えるためのものと考えるべきではないと示唆する. 中生代の初列風切羽が現生鳥類のものと相違ない場合に限り,初列風切羽の出現の後に,動力羽ばたき飛行の進化のためにそれ以上の改善が要求された. 従って,現生鳥類の羽ばたきの起源は,孔子鳥の後に分岐したタクサから起こった――おそらく多様な白亜紀のエナンティオルニス類(enantiornithine)かオルニツール類(ornithurine)の放散の過程で現れたのだろう.


参考文献

1. R. L. Nudds, G. J. Dyke, Evolution 63, 994 (2009).
2. R. A. Norberg, in The Beginnings of Birds: Proceedings of
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the International Archaeopteryx Conference, Eichstätt
1984, M. K. Hecht, J. H. Ostrom, G. Viohl, P. Wellnhofer,
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19. Materials and methods are available as supporting
material on Science Online.
20. A. Elżanowski, in Mesozoic Birds: Above the Heads of
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22. U. M. Norberg, Am. Nat. 126, 303 (1985).
23. P. Burgers, L. M. Chiappe, Nature 399, 60 (1999).
24. We thank J. Gardiner, G. Kaiser, J. Sigwart, and three
anonymous referees. Collections access was kindly
provided by O. Rauhut [Bayerische Staatssammlung fuer
Palaeontologie und Geologie (BSP)], R. Brocke
[Senckenberg Forschungsinstitut und Naturmuseum
(SMF)], and J. Oelkers-Schaefer (SMF).



原文:Science 328: 887-889