翻訳『始祖鳥は地面効果による飛行者であったか?』

このコンテンツについて - 2002年11月19日 -
 このコンテンツは、BRIAN O'FARRELL, JOHN DAVENPORT & THOMAS KELLY によるIbis(2002), 144, 686-688 の内容を、私(始祖鳥)が日本語に翻訳したものです。
 訳した本人でさえも日本語として読みにくいと感じます。ごめんなさい。(^v^;

【参考URL】
British Ornithologists Union


こちらからオンラインで原文を読むことができるようですが、読むためには登録が必要とのことです。
http://www.ibis.ac.uk/


 以下、原文の翻訳です。

始祖鳥は地面効果による飛行者であったか?

始祖鳥は地面効果による飛行者であったか?
(Was Archaeopteryx a wing-in-ground effect flyer?)


BRIAN O'FARRELL, JOHN DAVENPORT & THOMAS KELLY

Department of Zoology & Animal Ecology, University College Cork, Lee Maltings, Prospect Row, Cork,
Ireland



 地面効果(Ground effect)は航空機が地面または水面近くを飛ぶ場合によく知られる現象で,翼渦(wing vorties)と下方の表面との相互作用に由来するものである.地面効果は水平飛行のために要求される推力と誘導抗力(induced drag)の両方を減少させる.  これは離着陸時に重要なことであり,離陸時には必要な推力を減少させるが,着陸を試みる場合,出力を減少させない限り航空機を上方に留める傾向がある.Rayner(1991)によって発表された,地面効果影響下における動物の飛行についての航空力学的理論は,鳥とコウモリは地面効果影響下での定常飛行において,(利得はかなり速い飛行に依存するが)輸送コストの15%まで,及び機械的飛行出力(mechanical flight power)の35%までを節約すると結論付けている.地面効果(Ground effect)は定数βに由来する.(β=h/b, h = 表面からの高度, b = 0.5 x 翼幅) 地面効果はおよそ β=1.0 で検出され,β=0.5 で節約効果が顕著になり,βが0.1~0.2で最適となる.

 クロハサミアジサシ,ミサゴ,Myotid batが地面効果の影響下で採食する一方,高翼面荷重の傾向を示す非常に多くの現生の海鳥(例: ウ,ウミスズメ,海ガモ)は静かな水面上を飛行する時,日常的に地面効果を利用する.(Rayner 1991) 大型の鳥(ハクチョウ,オオミズナギドリ,kori bustard)が,地面上,もしくは水面上の長距離滑走中に足が推進と補助の役割を演じている間,地面効果を利用していることは明らかである.シギのようなその他の鳥は遠くへの渡りの時には高く飛ぶが,近距離の移動時に水面または地面に非常に近いところを飛ぶ.これらの鳥の多くは羽ばたきの下死点でほとんど翼端が水面に触れるくらいの飛行をする.

 始祖鳥(Archaeopteryx lithographica)は140年の間,多大な関心と議論をひきつけている.(Shipman 1999) いずれにせよ始祖鳥は飛べたということは討議されており(de Beer 1954, Thulborn & Hamley 1985),骨化した胸骨の存在(アイヒシュテット標本),丈夫な叉骨(furcula),そして非対称の羽根構造(Feduccia & Tordoff 1979)は,始祖鳥が飛べたことを明確に示している.竜骨突起(carina)の欠落は現生の鳥のような打ち下ろしとジャンプによる離陸は,いずれも不可能であったこと暗示していると解釈された.しかしながら,Yalden(1971)と Ostrom(1974) による骨格の分析は,力強い胸筋と三角筋(deltoid mustle)を示し,筋肉による翼の上下運動を促進する配置がされていることを示唆している.Yalden(1971)もまた,コウモリにおけるはばたき飛行は竜骨突起を持たずとも有効であると指摘しているが,それにはコウモリが通常は平らな面から離陸しない点を加えなければならない.始祖鳥が高速走行と両立できる長い足を持っており,滑走離陸を補助していたであろうことは,その点で注目すべきである.

 始祖鳥の飛翔筋が現生の鳥に比べて小さいことは概ね認められており,弱弱しい飛行を暗示させるが,しかしこの結論は注意して扱われなければならない.Ruben(1991) は,始祖鳥は外温性であり,一般的な爬虫類型の筋肉を持っていたと主張する.トカゲやワニを含む現生の爬虫類は哺乳類や鳥のおよそ2倍の出力を引きだせる筋肉を持っている(ただしこの高出力は限定されたスタミナに付随したものであり,ゆえにこのような筋肉は無酸素代謝に頼っている)(Bennett et al. 1981, 1985).

 Ruben(1991)を併せて考えると,外温性の始祖鳥は元気よく羽ばたくことができたが,おそらく長くは飛べなかった――1kmを少し超える航続距離だったと彼は仮定している.最後に,この種の翼面積と翼面荷重についてが議論の対象である.(Yalden 1984, Rietschel 1985) おそらく始祖鳥は,筋力(内温性の場合)または持続力(外温性の場合)が限定された,比較的に羽ばたき能力が弱い飛行者であったように見える.

 この種についての飛行能力の進化についても議論があった.始祖鳥は飛ぶ前に木に登る樹上の滑空者から派生したものか(Heilmann 1926),あるいは,羽根の進化と羽ばたきと安定制御の進化により空に向けて跳びあがり昆虫を捕らえることで特別な捕食空間を得た,走行に適した足を持つ形態に由来するものか(Nopsca 1907, Ostrom 1974, Caple et al. 1983)? 現在,『走行に適した脚を持つ』仮説が多数派であるが,しかしこれには数学的な難点があり(Rayner 1985a, 1985b),Garner及びその他(1999)は近年,両方の仮説を包括した『pouncing protavis』モデルを提案している.

 ここで我々は,始祖鳥は地面効果による揚力の増大に依存することでそのぎりぎりの飛行能力を改善していたという仮説について,始祖鳥の解剖学的特徴と,1億5000年前のゾルンホーヘン周辺状況の特徴から考える.始祖鳥は60cmの翼長をもっているので(Yalden 1984),高度15cm以下で地面効果による十分な抵抗現象を得るだろう.これは低い高度に見えるかもしれないが(翼長の25%),しかしカモの仲間(Somateria mollissima)(翼長 約100cm)は確かに静かな水面上を低く(体が水面上25cm以下)飛び,降ろされる翼端が水面から1-2cmを超えない羽ばたきで飛行する.(I. Davenport pers. obs.) 表面が完全な平坦かつ水平でなくても良く,地面効果が実現可能である.ゆるやかにうねった地面,もしくは急な坂でも(全くの崖でさえも),もし翼が表面に十分近ければ地面効果は可能とされる.

 現生の鳥とは違い,始祖鳥は長い体と尾を持っていた.短い体と,現生の鳥の巨大で密度の高い筋肉は重心を翼弦内で前進させたが,しかし縦方向の不安定性を持つ.注目すべき稼動範囲を持った複雑な尾の構造は(尾端骨 + 尾羽 + 関連する筋肉と神経)この不安定性を相殺し,離陸,着陸,(何かに)止まる場合の準安定状態において大きな役割を演じる.(Caple et al. 1983, Gatesy & Dial 1993) 加えて,MayburyとRaynerは(2001)近年,現生の鳥(ホシムクドリ)の畳む尾羽は剥離(flow separation) と渦放出(vortex shedding)の制御によって抵抗を減少させることを示した.

 始祖鳥は小さな飛翔筋と長い骨質の尾を持ち,この特徴は翼弦内で重心を大きく後退させた.始祖鳥の尾は現生の鳥のものと非常に異なっている.この尾羽の面積は現生の鳥と比べると大きく(Table 1),,その中心は翼と重心より遠い後方にある.この尾は,前方の翼と同じように揚力を重心の後ろに作り出す『尾の翼』と説明され(Peters & Gutmann 1985),従って縦方向の安定を促進する.しかしながら,この尾は非常に低いアスペクト比は(およそ0.46)貧弱な揚抗比を暗示しており,その長さと楕円型の形状に伴うエネルギー上のコストがそこに存在する.

 始祖鳥の尾椎骨は骨化した腱と靭帯で結合されており,横方向の動きを妨げている.上下の尾の移動は尾の基部によって制御されている(Shipman 1999).そこには重要な筋肉による始祖鳥の尾羽の制御についての証拠がなく,椎骨と尾羽の固い結合を指し示している.これは尾の細かい制御がないことを暗示しており,よって尾の用途はおおむね安定性のためであり,機動性のためのものではない.おそらく始祖鳥は安定していない場所に着陸したり止まったりはできず(Gatesy & Dial 1996),着陸滑走が必要だったらしい.

 巨大な尾は重心から大きく後方に配置されており,迎え角が尾の基部によって制御されることは,我々の地面効果仮説を強く支える.重心から離れたところに配置される舵面は安定性と連携しており,この場合はピッチングモーメント(機首の上下)に強く抵抗する.(Smith 1992) 縦安定を維持することは人工の地面効果翼機(WIG)にとって厳しい問題である(Anonymous 2000).なぜならWIGが上昇し地面効果から外れた場合に翼の揚力中心が前方に移動するため,機首上げ方向のピッチングを生じるためである.逆に,WIGが地面効果に入ると機首下げ方向のピッチングを生じる.これらの傾向は特に鳥のような上反りの翼において記録される.WIGにおけるこの対策は,大きな尾翼を結合することである.(始祖鳥の)大きな尾羽がこれに似ている働きを持つことから,我々は,始祖鳥が地面もしくは水面に非常に近いところを飛行していたことを確信している.もしこの動物が機首上げのピッチングを示し始めた場合,反対に尾によって軽く沈下する.そして逆もまた真である.非常に広く,また平面的な尾は,地面効果の影響下において高度を保つことに有効である.(van Opstal 2000) これはポーポイズ運動を排除したうえで,現象の拡張された取得を許可する.

 古地理学と古気象学の証拠は(Viohl 1985),始祖鳥が比較的に乾燥した地面と塩気のある/高い塩分を含む干潟が交互にあらわれる平坦な環境に生息していたことを示している.地面は川が形成された小さな痕跡を示しており,淡水は限定されたつぎはぎの資源であった.木と草は存在せず,植物は多肉質の(stem-succulent) 3mを超えない高さのものが限界であった.開けた平原はおそらく植物の群落と水源で分けられていた.

 高い高度の飛行を維持することはこの環境では生産的ではない.定常飛行と滑空を地面効果のもとでおこなうことは,静かな水面や延長された藪を横切るときにエネルギーを節約する方法となりえるであろう.

加えて,古生物学的証拠は(Viohl 1985),同時期におけるプテロサウルスの存在を明確に示している.プテロサウルスは機動性の高い飛行捕食者であったから,おそらく高い高度を飛ぶ始祖鳥をたやすく餌食にしたであろう――地表面,水面近くを飛ぶことは,この古代における鳥類種の傷つきやすさを減少させたであろう.



REFERENCES(参考文献)

Anonymous, 2000. Wing in ground effect aerodynamics. http://www.se-technology.com/wig/html/aerodynamics.html.

de Beer, G. 1954, Archaeopteryx Lithographica. London: British Museum Natural History.

Bennett, A.F., Deymour, R.S. & Webb, G.J.W. 1985. Mass-dependence of anaerobic metabolism and acid-base disturbance during activity in the salt-water crocodile, Crocodylus porosus. J. Exp. Biol. 118: 161-171. Bennett, A.F., Gleeson, T.T. & Gorman, G.C. 1981. Anaerobic metabolism in a lizard (Anolis bonairensis) under natural conditions. Physiol. Zool. 54: 237-241.
Caple, G., Balda, R.P. & Willis, W.R. 1983. The physics of leaping animals and the evolution of preflight. Am. Nat. 121:455-476.

Feduccia, A.& Tordoff, H. 1979. Feathers of Archaeopteryx: asymmetric vanes indicate aerodynamic function. Science 203:1021-1022.

Garner, G.P., Taylor, G.K. & Thomas, A.L.R. 1999. On the origins of birds: the sequence of character acquisition in the: evolution of avian flight. Proc. Roy. Soc. Lond. 266B: 1259-1266.

Gatesy, S.M. & Dial, K.P. 1993. Tail muscle activity patterns in walking and flying pigeons (Columbia livia). J. Exp. Biol. 176:55-76.

Gatesy, S.M. & Dial, K.P. 1996. Locomotor modules and the evolution of avian flight. Evolution 50:331-340.

Heilmann, G. 1926. Origin of Birds. London: Witherby.

Maybury, W.J. & Rayner, J.M.V. 2001. The avian tail reduces body parasite drag by controlling flow separation and vortex shedding. Proc. Roy Soc. Lond. 268 B: 1405-1410

Nopsca, F. 1907. Ideas on the origin of flight. Proc. Zool. Soc. Lond. 15:223-236.

Norberg, U.M. 1990. Vertebrate Flight. Berlin: Springer-Verlag.

van Opstal, E.P.E. 2000. Longitudinal stability of WIG boats. http://www.se-technology.com/wig/theory/stability.html.

Peters, D.S. & Gutmann, W. 1985. Constructional and functional preconditions for the transition to powered flight in vertebrates: In Hecht, M.K., Ostrum, J.H., Viohl, G. & Wellnhofer, P. (eds) The Beginnings of Birds. Proceedings of the International Archaeopteryx Conference Eichstätt 1984: 233-242. Willibadsburg: Freunde des Jura-Museums Eichstätt.

Rayner, J.M.V. 1985a, Mechanical and ecological constraints on flight. evolution. In Hecht. M.K.. Ostrum, J.H.. Viohl, G.. & Wellnhofer, P. (eds) The Beginnings of Birds. Proceedings of the International Archaeopteryx Conference Eichstätt 1984: 279-288. Willibadsburg: Freunde des Jura-Museums Eichstätt.

Rayner, J.M.V. 1985b. Cursorial gliding in proto-birds. An Expanded version of discussion contribution. In Hecht, M.K., Ostrum, J.H., Viohl, G. & Wellnhofer, P. (eds) The Beginnings of Birds. Proceedings of. The International Archaeopteryx Conference Eichstätt 1984: 289-292. Willibadsburg: Freunde des Jura-Museums Eichstätt.

Rayner, J.M.V. 1991. On the aerodynamics of animal flight in ground effect. Phil. Trans. Roy. Soc. 334B: 119-128.

Rietschel, S. 1985. Feathers and wings of Archaeopteryx, and The question of her flight ability. In Hecht, M.K., Ostrum J.H., Viohl, G & Wellnhofer, P.(eds) The Beginning of Birds. Proceedings: of the International Archaeopteryx Conference Eichstätt 1984: 251-260. Willibadsburg: Freunde des Jura-Museums Eichstätt.

Ruben, J. 1991. Reptilian physiology and the flight capacity of Archaeopteryx. Evolution 45: 1-17

Shipman, P. 1999. Taking Wing. Archaeopteryx and the Evolution of Bird Flight. London: Phoenix.

Smith, H.C. 1992. Illustrated Guide to Aerodynamics. Blue Ridge Summit, PA: McGraw-Hill.

Thulborn, R.A. & Hamley. T.L. 1985. A new palaeoecological role for Archaeopteryx. In Hecht, M.K., Ostrum, J.H., Viohl, G. & Wellnhofer, P. (eds) The Beginnings of Birds. Proceedings of the International Archaeopteryx Conference Eichstätt 1984: 81-89. Willibadsburg: Freunde des-Jura-Museums Eichstätt.

Viohl, G. 1985. Geology of the Solnhofen lithographic limestone and the habitat of Archaeopteryx. In Hecht, M.K., Ostrum, J. H., Viohl, G. & Wellnhofer, P.(eds) The Beginnings of Birds. Proceedings of the International Archaeopteryx Conference Eichstätt 1984: 31-44. Willibadsburg: Freunde des-Jura-Museums Eichstätt.

Yalden, D. 1971. The flying ability of Archaeopteryx. Ibis 113:349-356.

Yalden, D. 1984. What size was Archaeopteryx? Zool. J. Linn. Soc. 82:177-188.

原文:Ibis(2002), 144, 686-688