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ニュージーランドの野鳥


――始祖鳥生息地自然史分館――

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第8回 『ブロードビルド・プライオン』 2000年4月23日執筆

 先日の2000年1月12日、ワナカからクライストチャーチに帰ってくる途中、内陸の町オマラマ(Omarama)からクライストチャーチ方面に数十キロ進んだ辺りで、対向車線上に横たわっている鳥を発見。車を止め確認したところ、衰弱してはいますが生きていました。パイプの通ったような嘴、足に水かき、ブルーグレーの背中――クジラドリ(ミズナギドリの仲間)でした。(クライストチャーチに戻ってから調べたところ、ブロードビルド・プライオン(Broad-billed Prion:Pachyptila vittata)であることがわかりました。)一番近い海でも100km以上は離れた内陸部に、なぜこの鳥がいたのかは不思議です。

 体温を下げないように着ていたフリースでくるみ、水を飲ませたところ、歩ける程度に元気を取り戻しました。その日はクライストチャーチに戻った時点ですでに夕刻を過ぎていたため、ハジラミをとったり、体温を下げないよう湯たんぽを入れたりして夜を明かし、翌朝1月13日に傷病野鳥としてクライストチャーチのFerry Road Animal and Bird Hospitalに送り届けました。

Broad-billed Prion:Pachyptila vittata
わたしの車、エクスプレス・ワゴンの車中にて


【特徴】
英名:Broad-billed Prion
マオリ名:Parara
学名:Pachyptila vittata

 本種はミズナギドリ科(Procellariidae)のPachyptila属の一種で、この仲間は和名ではクジラドリ、英名ではプライオン(Prion)と呼んでいます。ニュージーランドで見ることができるのは6種類ですが、このブロードビルド・プライオンは、このなかではもっとも体の大きな種類であり、翼開長は195-225mmに達します。
 Pachyptila属の同定はくちばしの形でおこなうのがもっとも簡単で、本種は、Broad-billed Prionの名が示すとおり幅の広いくちばしをもっています。

【食性】
 海面すれすれに飛び、とう脚類・カイアシ類(ケンミジンコとか)、甲殻類、無脊椎のプランクトンなどをすくいあげているようです。私が知る限り、クジラドリは鳥類の中で唯一の(ヒゲクジラやジンベイザメのような)プランクトンフィーダーです。上くちばしの中にある、よく発達したラメラ状組織(lamellae:櫛のようなかたちをした、薄い膜が層をなしている組織)でこしとって食べます。ただし、しばしば小魚やイカも口にするようです。

【分布】
 本種の生息地は分散しており、NZ南島のフィヨルドランド地方(Fiordland)、スチュワート島(Stewart Island)の周辺の島、フォーボー海峡(Foveaux Strait)、チャタム諸島、Solander Islandsなど、南緯35度~50度の温帯に、まばらに分布しています。

【繁殖】
 8月末から9月中旬にかけて卵を1個だけ生みます。卵は10月なかばから11月初頭にかけて孵化し、およそ55日で巣立ちとなります。
 美味だったのでしょうか、マオリ族はこの雛をとって食べたそうです。

【補足】
 猫やネズミ、イタチなど、人間によって持ちこまれた動物のため、たくさんのコロニーが消滅し、現存するコロニーも危機に瀕しています。




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