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七つの海のティコ
憶測事典

『七つの海のティコ』の憶測解説コーナーです。
筆者の推定や偏見が大量に混入しています。


スクイドボールは操縦が難しい
 題記の通りです。
 スクイドボールの断面図を見る限り、上部に浮力が集中している設計には見えませんし、下部に出入り用のハッチがあることを考えても下に重りがあるとも思えません。こう考えると、スクイドボールはなにもしない状態ではエンジンのある背中を下にした姿勢で安定しそうです。ということは、コンプレッサーの推力でむりやり『正しい姿勢』にしていたのでしょうか。

 そうでなくてもスクイドボールには安定翼もなにもありませんから、ちょっと操作を誤っただけで、すぐに危険なフラット・スピンに入ってしまうことでしょう。これを自由に操ることができたアルは天才操縦者です。ましてや、わずかの期間にスクイドボールを手懐けてしまったトーマス君はまず間違いなくニュータイプでしょう。そういえば、スクイドボールを降りたあとは『Vガンダム』に乗っていたという噂を聞いたことがあります。

スクイドボールはチタニウム製だった
 このたびスクイドボールの大きさ、性能などを考慮した結果、スクイドボールはチタニウム製だったという結論に達しました。

 なぜこうなったかを説明するには、スクイドボールの直径のお話からしなければなりません。画面上で見る限り、スクイドボールの大きさは各話まちまちです。同じ話でも、アルと一緒に画面に収まっているときと、スコットと同じ画面内に入っているときとでは大きさが違ったりします。ティコ(体長8メートル)と一緒のカットにいたっては大きさが5割も違うこともありますが、キャラクターとの対比で見る限り、おおむね1.8メートル~2メートルの範囲内におさまっているようです。
 これをふまえて、まずスクイドボールの体積を計算してみましょう。球の体積はV=(4/3)*πr3で求められます。

直径(m) 体積(m3)
2.04.189
1.93.591
1.83.053

 直径が20センチちがっただけで、排水量は1トンも変わってくるのですね。以下は、もっとも小さい解釈の1.8メートルを選んで計算を続けることにします。そうでないと計算が合わないのです。

 さて、大きさについてはおおらかなスクイドボールですが、限界潜水深度については具体的な数値があげられています。『七つの海のティコ ビジュアルガイド』によると、1000メートルまで潜れるとのことです。潜水調査船『しんかい』初代の限界潜水深度が600メートルでしたから、個人レベルのものとしては、これはかなりの高性能です。水深1000メートル、すなわち100気圧の世界では、1平方センチメートルあたり103.3928571キログラムの圧力がかかります。水圧はどんなに小さな傷も見逃してはくれない――と、どこかのだれかも言っていました。相当丈夫につくらなければならないのはいうまでもありません。

 というわけで、必要な強度が得られる重さを計算してみます。外板の厚さを10センチメートル、材料をS45C鋼材(密度7.8)とすると、以下のような結果を得ることができます。

全体の体積
(m3)
内部の容積
(m3)
外板の容積
(m3)
外板の重さ
(t)
3.0532.572 0.4813.753

 つまり、鋼材だけで作った場合、スクイドボールの重さは外板だけで3.7トンもあるということになります。(内部の容積にあたる空気の重さはおおむね8キログラムで、無視できるレベルです。)さらに人が乗りますし、このほかに推進システムや補機類もあるはずですから、実際にはもっと重いはずです。本編中でスクイドボールがもっとも重い荷物を運んだとおぼしきシーンは、北極で、スコットとナナミちゃんと、酸素ボンベを含むスクーバの装備一式を運んだときです。このときの総重量はおそらく4トン近かったでしょう。
 これにたいして、体積から得られる浮力は3トンに過ぎません。水中でひとところにとどまるためには、上向きに1トンの推力を発生しつづけなければなりません。推力1トンといえば、初期のジェットエンジンに匹敵します。それ相応の面積をもつ翼をつけてやれば、スクイドボールは空を飛べることでしょう。

 これではあまりにも荒唐無稽なので、チタニウム(密度4.4)だと仮定して計算してみました。ただし、強度を保つために外板厚さは15センチメートルに増してあります。

全体の体積
(m3)
内部の容積
(m3)
外板の容積
(m3)
外板の重さ
(t)
3.0532.352 0.7013.087

 これでもちょっと浮力が赤字ですが――かなり状況が改善されました。画面で見たものと大きさは違ってきますが、さらに直径を下げることで浮力の収支の問題も解決できそうです。
 チタニウムばんざい。


国際南極財団の基地はどこにあったのか
 『七つの海のティコ』小説版のクライマックスで、スコットが次のようなことを言っています。

『全速で西に向かい、フランスの観測基地に写真を持ち込むんだ。』
(第三巻、170P)

 つまり、国際南極財団の基地は、フランスの観測基地の東側にあったということになります。そして、フランスの南極基地といえば、ひとつしかありません。緯度はほぼ南極圏ぎりぎり、経度は東経140度の位置にある、DUMONT D'URVIIL 基地です。


 さて、ペペロンチーノ号の一行は、オーストラリアからコモロ諸島、そして南極というルートをとっています。オーストラリアにいたときにはちょうどカモノハシの繁殖期でしたから、時期を絞り込む有力な手がかりです。航海の日数を考えると、南極海にたどりついた時点では、南半球は真夏であったと考えるのが妥当でしょう。

 そうだとすると、氷はバレニー諸島のあたりまで後退していたはずですから、ペペロンチーノ号の位置もだいたいこのあたりだったのではないかと想像できます。
 この図を見る限り、イタリアのTERRA NOVA BAY基地のほうが近そうに見えますが、このあたりは真夏でも氷に覆われています。いくらペペロンチーノ号の前身は砕氷船だといっても、火急の事態にあってのんびりと砕氷しながら進むわけには行きませんから、より海岸に近いフランスの基地を目指したということなのでしょうか。

 でも、なんだかフランスの基地では駄目なような気がしてなりません。(^^;
 フランスは、西欧諸国の中でもっとも環境・生態系保護に冷淡な国として有名です。(ただし、原子力産業はフランスの国策産業なので、地球温暖化問題だけは別のようです。)

トロンチウム
 『トロンチウム』はヒカリクジラが生み出す、謎の物質です。 これがあったからこそ、スコットによるヒカリクジラの探索が、GMCやルコント博士と競合することになったわけで、『七つの海のティコ』のプロットに深くかかわっているキーワードでもあります。

 さて、トロンチウムがいまだ発見されていない元素だとしたら、原子番号は110以降になるのでしょう。だとすると――原子番号が大きいからといってかならずしも壊れやすい物性というわけでもないらしいのですが――素人考えでは、おそらくトロンチウムの半減期はミリ秒、マイクロ秒単位のような気がします。
 生成された直後にアルファ線やらベータ線を大盤振る舞いしたあげく、あっというまにトロンチウム以外の元素(鉛かなにか)に化けてしまったのではお話になりません。

 わたしの説は、トロンチウムとは、ヒカリクジラを宿主とする、発光性の微生物ではないかというものでした。植物や菌類の世界では『~ウム』という学名は、さほど珍しくありません。また、寄生者と宿主の関係ということで、生物進化にかかわっているというあたりについても、ウイルス進化論を考えればもっともらしい理論武装ができそうです。

 たしかに本編の中で、はっきり『元素』と言われているシーンはありますが、あくまでも、GMCの内部で符丁としてそういっていた可能性もあります。
 英語にしてみれば『元素』と『成分』は同じ言葉ですし、GMCが機密保持のために『トロンチウム』の正体を欺瞞していたのかもしれません。
 第一時世界大戦下の英国でも戦車のことを『水槽(タンク)』と称していましたし、第二時世界大戦下の日本でも、特攻兵器『桜花』を『マル大部品(大の字をマルで囲む)』と呼んで欺瞞していた例もありますから、まったく的外れな推論というわけでもなさそうですが、どんなものでしょう。



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