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七つの海のティコ
憶測事典

『七つの海のティコ』の憶測解説コーナーです。
筆者の推定や偏見が大量に混入しています。

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スコットの専門はなんだったのか
 今回は研究者としてのスコットに焦点をあててみました。

【スコットの解剖学的知識のすばらしさ】
 スコットは『ティコ』第一話の終わりのシーンで、ティコがくわえて持ってきた光る骨を、一瞥しただけで『ヒカリクジラの骨だ』と同定してしまうのです。
 欠損もなさそうでしたから、あの骨はもともとあのかたちだったのでしょう。クジラの骨で、あの大きさでああいう形(※1)をしたものといえば、指骨くらいしか思い当たりません。それも、クジラのものであるという前提が与えられてのことで、アザラシやアシカなどの鰭脚類のものである疑いもありますし、発見したのは湾内ということを考えると、骨の持ち主は陸棲動物である可能性もぬぐいされません。
 ルコントの手に渡ったサンプルはクジラヒゲですから、これは誰が見てもクジラのものとわかりますし、耳骨だったら確かにクジラとわかるのですが、これを指骨一本だけで、しかも一瞥しただけでクジラの種類まで同定できてしまうという事実は、スコットが該博な解剖学的知識をもっていたことをしめしています。(※2)(※3)

【スコットの標本管理法】
 標本に荷札をつけたり油性インクで描きこんだりラベルを貼ったりしている様子はありませんでしたが、自分の標本がいつどこで確保したかさえわからないのでは論外なので、なんらかの方法で記録はしていたのでしょう。すくなくともナナミちゃんはスコットの標本についてしっかり把握していたようです。(※5)

【スコットの専門はなんだったのか】
 さて、題記の問題です。
 『七つの海のティコ――真夏のマーメイド』によると、スコットは、『ネイチャー』や『サイエンス』などの科学雑誌に論文を投稿しているそうです。さて、スコットはどのような分野の論文をかいていたのでしょうか。『ネイチャー』の査読を通るほどですから、切り口が独創的で学際的な論文をかいていたのは想像にかたくありません。しかし具体的にどのような論文を書いていたのかは、作品中では一切語られていないため、想像するほかありません。

 『~ティコ』作品のディティールから考えると、進化生物学、生理学、発生学、形態学、動物行動学(行動生態学)、生態学、分岐分類学などが候補として浮かんできます。

 まず、前述したようにスコットの解剖学の知識はすばらしいものです。しかし、スコットは『研究室で遺伝子を切り刻んでも生物のことはわからない』という意味のことをルコントに言っていますから、形態学は除外すべきでしょう。
 また、南極編ではヒカリクジラを探すためにスクイドボールで潜水して闇雲に探し回っていますが、生態学や動物行動学に関してはどうもエキスパートではなさそうです。(クジラ類は音で探すのが合理的です。)いくら対象が光っているとはいえ、水中では光はすぐに減衰してしまいます。また、シロナガスクジラと行動をともにしているらしい事実までつかんでいながら、シロナガスクジラの回遊パターンをおさえていなかったり、いろいろと不手際が目立っています。ということで、生態学や動物行動学も候補から外れます。
 さらにいえば、発生学もイメージが違います。スコットだけではなく、同じ研究室の同僚だったルコント博士もフィールドワークに出ていることから見ても、これも可能性は低そうです。(※6)

 そうなると残るのは、生理学、進化生物学、分岐分類学となりました。
 ここでヒントとなるのが、第30話のエリオット(小説版ではクリックスティン博士)の発言です。

 『おまえなら、生物の進化に関して重要な発見ができるはずだ』

 結論を言えば、スコットの専門は、分岐分類学か進化生物学だったのではないかとわたしは想像しています。

【注釈】
※1 ヒカリクジラの骨
 いわゆる『マンガで犬がくわえている骨』、あるいは『はじめ人間ギャートルズに登場するマンモスの肉についている骨』のかたちをしていました。マンガ的記号としての『骨』は今も昔もかわらないようです。

※2 クジラの同定
 少なくとも化石からクジラの種類を同定する場合は、頭骨でおこなうのが普通です。

※3 ヒカリクジラ
 ヒカリクジラといえば、船長室に飾られている絵も、かなり正確に描かれていました。スコットが自分で描いたのか、誰かに描いてもらったのかはわかりませんが、絵のなかのヒカリクジラは実際のそれと酷似していました。ザトウクジラ(Megaptera novaeangliae ※4)をそのまま光らせたようなプロポーションです。スコットは物語開始の時点ですでに、ヒカリクジラがどういう姿をしているかについて有力な証拠をつかんでいたことがわかります。

※4 ザトウクジラの学名
 学名のMegaptera は、ギリシア語で『巨大な翼』のことです。やはりあの前鰭はインパクトがあるのですね。

※5 ナナミちゃんはスコットの標本について把握している
(スコットの試験管の中身をシェリルに訪ねられたとき、間をおかずに『南インド洋の砂』と答えています)

※6 スコットとルコントの研究分野は重なっている
 ルコント博士はスコットをライバル視していますが、ライバルはお互いをライバルと認め得る程度に似ていなければなりません。現時点でもスコットとルコントの研究分野が重なっているのはかれらの言動から明白です。

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